STYLIST’S VIEW
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じゃがいも、にんじん、玉ねぎ……材料を目の前にして何をつくるか? どんな味つけにするか? 僕が考える美容師の仕事は、料理でいえば調理や味つけをすることだと思っています。お客さまの髪という素材があってどんなスタイルにするか? ここはそれぞれの美容師の腕の見せどころ。じゃがいもとにんじんと玉ねぎで肉じゃがをつくる人もいれば、カレーをつくる人もいる。そしておいしい肉じゃがをつくる人もいれば、そうでない人もいる。僕はおいしいものをつくりたいと思っています。
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丁寧に仕事をして
世界でただひとつの
スタイルをつくる
世界でただひとつの
スタイルをつくる
お客さまがサロンに来られたら、僕はまず外見のパーソナルを見ます。どんなファッションが好きか? どんな色が好みなのか? どんなテイストなのか? そしてセット面に座ってから、どんな音楽が好きか?など趣味を訊きながら、今日、どのようなヘアスタイルにしていくかを一緒に決めていきます。コンプレックスについては訊きません。コンプレックスをコンプレックスでなくすのが僕たちの仕事。だからどこがコンプレックスだろうと関係ないのです。ただ、好き嫌いは訊きます。長いのが好き? それとも短いの? 女らしいのが好き? それともクールなの?−−そのようにOKかNOの2択で答えられる質問を重ねながら、一緒にOKのゾーンをとことん絞り込んでいきます。そしてOKのゾーンを一緒に確認したら、そこからは僕という料理人の出番。じゃがいも、にんじん、玉ねぎがあって、和風も嫌い、こってりも嫌いならば、世界一おいしいポトフにしよう! そんなふうにスタイルをつくります。勝手に“ポトフ”をつくっても、材料を一緒に確認して好き嫌いの幅を確認しているから、できあがったスタイルはたいてい気に入ってもらえます。その上、ポトフのように素材の持ち味が生きてくる料理が僕は大好き。奇をてらった料理ではないのに、丁寧な仕事ぶりで味に格段の差が出るようなそんな調理をします。キューブ状の出汁を放り込んで画一的な味つけにするのではなく、野菜からブイヨンをつくって、世界でたったひとつの“ポトフ”を仕上げるのです。
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今日のモデルさんはゲーム会社にインターンシップとして働いている学生。ヘアスタイルの自由度が高い会社だから「BIGチェンジをしたい!」とリクエストをしてきました。そこで僕は、黒髪のままでありながら、パーマをかけて、どこかクラシカルな雰囲気を漂わせるベリーショートにしました。彼女にとってベリーショートは人生初! だから、彼女からのリクエストは長さで叶えました。黒髪でパーマにしたのは、みんながあまりやっていないスタイルだから。きっと、今の彼女は社会人デビューを控えて、ゲームをクリエイトするという楽しい会社の中で、他人とは違うことに興味を持っているだろうと思ったのです。クラシカルな雰囲気にしたのは、リュックにアリスのキーホルダーをつけていたから。パッと見は、キャラものが好きではなさそうなのに、アリスの小さな人形をつけている。だから、どこかファンタジーな匂いを漂わせながらクラシックな雰囲気にしたらいいかも?と思ったのです。彼女が60年代にトリップしたら? をイメージしてつくりました。
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お客さまのスタイルをつくったら、僕はいつも次の提案をします。材料は変わらないけれど、実はこんな料理もできるし、こんな味つけも楽しめるんだよって伝えたいから。同じカレーをつくるにしても、日本の一般家庭のカレーもあれば、懐かしさすらおいしく感じる給食のカレーもあるし、本格的なタイカレーだってある。次もおいしいものを食べたい!と思ってもらえたらいいなと次の提案をするのです。もちろん、リピーターになって顧客になってほしいという思いもあるけれど、次回の提案をするのは単純に僕がまた会いたいから(笑)。人が好きな僕は、一度会った人に何度も会いたいのです。何度も会って、何度も笑いあいたい。それが1回でも多く、少しでも長い時間になったらいいなと思っています。
HAIR STYLE
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AFTER THE BEAUTY AWAKE
こういうと傲慢に聞こえてしまうかもしれないけれど、僕は自信があります。自分の美容師としての力を信じています。それは、ここまで僕を育ててくれた人たちがいて、その人たちのことを心から信じているから。僕が信頼する人たちが僕という美容師をつくってくれているから、僕は僕という美容師としての自分を誰よりも信じられるのです。ここでもっともっと頑張れば、もっともっといい美容師になれる。今、そんな将来しか見えていません。
高木 貴雄
vetica スタイリスト
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