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LIKE IT! HAIR CATALOG JP THE ERCOMMENDED vol.11 | fuzkue

「一人」だけれど
「独り」ではない時空

veticaのスタッフ伊豆島梓さんが「LIKE IT!」スポットに選んだのは東京・初台にある「一人の時間をゆっくり過ごすための静かな店」フヅクエ。「心地よい静けさが約束された時間」を提供しようとする店長の阿久津さんにフヅクエへの思いをお聞きました。

パブリックな空間で
パーソナルな時間を過ごす

 読書家ではないけれど、本をまったく読まないわけでもない私。だから、わざわざ本を読むための時間を確保することには困っていませんでした(笑)。でも「一人の時間をゆっくり過ごすためのお店」があると聞いて「行ってみたい!でも行っていいの?」と気になっていました。それがフヅクエです。一人の時間をきちんと味わうことへの憧れと、一人でいることの寂しさから逃げたい気持ち、そのどちらもが私にはあって、どんなところかはわからないけれど、フヅクエに惹かれたのです。

今回、フヅクエでお話を聞かせてくださったのは、オーナーであり、店長であり、店員であり、読書家の阿久津さん。フヅクエって何? どんな思いや考えでお店をつくっているの? あれこれズバズバと質問を投げかけてみました。

一人でいられるけれど
ゆるやかに人のぬくもりを感じられる、
そんなお店でありたいです

阿久津隆 / フヅクエ オーナー

栃木県出身。大学卒業後、金融機関に3年間勤務。配属先は岡山。2011年に退職し、そのまま岡山でカフェを営む。2014年、京王線初台駅からほど近い雑居ビルの元美容室をフルリノベーションし、フヅクエをオープン。

 ヘアサロンで働いていると、入れ替わり立ち替わりお客さまがいらっしゃる。お店にはスタッフがいつもいる。それはそれで私にとって心地いい時間です。でもときどき、お休みの日に考えごとをしたり、雑誌や本が読みたくて一人で出かけることがあるんです。そんなとき、たとえば、ファミレスでドリンクバーをオーダーすると、規定料金を払っているからお替わりは制限なくできるし、滞在もそれこそ閉店まで居ていいはずなのに、どこか頭の片隅に「居ていいのかな?」という思いが消えない。それで結局、何か考えごとをしようと思っていても、ある程度の時間が経過すると、一人なのに集中できない(笑)。阿久津さんは、そのような経験、ないですか?
「めちゃくちゃありますね。一人でゆっくりと本を読みたいけれど家ではゴロンとしてしまう。だからできたら外で、それも静けさが約束された場所で読みたい。でもなかなかいい場所がない。そんな思いからフヅクエをつくることにしました」

 阿久津さんがお持ちの「他者と一緒の空間でありながら一人で読書に集中したい」という思い、その原体験は何なのでしょう?
「これまで考えたことがなかったけれど、大学時代、ルームシェアしていたので、もしかしたらその経験が影響しているのかもしれませんね。同じ空間にいるのだけど、それぞれ干渉しないときの空気感の心地よさを覚えていたのかもしれません」

 広告費をかけて大きくお店のことを宣伝しているわけではないですよね? それはどんな思いからですか?
「もちろん、お客さんが絶えないような繁盛店になったらいいなという気持ちはありますよ(笑)。でも、その一方で、フヅクエを適切に知ってほしいという思いが強いです。表の通りに看板を出していないのもそんな理由からです。webを見て、なんとなく興味や共感を持ってくれた人がここに足を踏み入れてくれればいいな、と。というか、まったく興味がない人には全然来てほしくない。ヘアサロンは、どうなのでしょう? お客さんにもいろいろあると思うのですが」

 ヘアサロンで働いていると、髪の毛を一回切っておしまいの接客では寂しいと感じています。そのお客さまが生きる中で、髪を通してずっと手助けをしたい。そんな思いを持っています。だから、私も、このサイトもヘアサロンも、適切に知ってほしいと思います。

カフェだけど、カフェじゃない
仕組みをつくることで、安心して長居できる

フヅクエは、これまでいろいろ面白い取り組みをしていますね。
「オープン当初は、メニューに値段はつけず、好きな金額をお支払いくださいというスタンスでした。その後、値段設定をした上で『もっと払ってもいいぞという方はもっと払ってくださってもうれしいですよ』ということにし、現在はそれに加え、『オーダー内容によってはお席料をいただく』という仕組みにしています」

 変遷があったのは、どのような思いがあったからですか?
「いろいろな考えはあって、細かいことはブログを読んでいただきたいのですが(笑)、現在の落としどころについては、何にも気兼ねすることなくゆっくりしていただくことと、店の健全な経営を両立させようというところです。だから、なぜこの金額が設定されているのか等々、うっとうしいくらい長々とメニューのところで説明しています(笑)。さっき伊豆島さんが言っていたような『居ていいのかな?』というお客さんが抱える不安を、こちらの店の手の内を見せることによって『なるほど、だから居ていいんだ』に変える、というつもりです。とにかく安心して長居をしてもらえる場所でありたいと思っています」
今日、頂戴したチーズケーキ、とってもおいしいです!
「コーヒーが飲みたければ、コーヒーが飲めて、お酒が呑みたければ、お酒が呑める。そしてお腹が空けば、ちょっとしたフードがあって、コーヒーと一緒にスイーツが食べたければクッキーやケーキがある。そんなお店があったらいいな、がフヅクエなので、スイーツもそのときどきで、いろいろ作っています。先日は、ウイスキーを呑むお客さんがチーズケーキをオーダーして、いい組み合わせだとおっしゃっていましたよ」

一人でじっくりと本と向き合う
時間を日常にもつ

 お店の中を見まわすといろいろな、それでいてジャンルに偏りがあるような本がいっぱい並んでいますね。
「お店をオープンするとき、本を置く必然性はないと思っていたんです。ここはあくまで本を読む場所であって、本がある場所である必然性はないと。読みたい本がある人はそもそも本を持ってくるだろうし。ただ他に置く場所もないので、CDやDVDも含めて私物を全部詰め込んじゃいました、というのがこの本棚です。だからここにあるのは僕がこれまで読んできた本なので当然、偏りはあるのですが、一冊一冊に固有の記憶を持った本がお客さんの手にとられるのは、なんとなく面白くうれしいものですね」

 初台という場所にしたのは、何か思い入れがあるのでしょうか?
「初台自体には何もないですね(笑)。わりとどこでもよかった。このような変な形態の店をやるには、反応する人口が多いであろう都心に近いほうがいいだろうくらいで。あとは単純に、僕が映画好きなので(笑)、午前0時以降も毎夜上映している新宿バルト9という映画館に行ける圏内で探していたところ、この物件と出会いました。ここはもともと美容室。今回、美容師さんが取材に来てくださったというのもなんだか不思議な感じがしますね」

言葉と向き合う思考を巡らせる

フヅクエは、ホームページの中に「フヅクエの日々」という阿久津さんが書かれたブログがあって、それがまた面白いですよね。フヅクエのことが気になって、実際にお店にお邪魔して、今、こうして店長である阿久津さんとお話しをしていて、それでも何だろう? フヅクエを説明するのって難しいなと思うのですけれど、フヅクエって何ですか?(笑) 
「フヅクエって何ですか?と訊かれて、ひと言で答えるのはとても難しいですね。ただ、最近、別に説明できなくてもいいかな、とも思っているんです。先日、5時間ぐらいの映画を見たんですけれど、とても短く感じたんですよ。5時間と聞くと長く感じますよね。二度見たんですが、ずっと見続けていたいと思いながら見ていました。この感覚って、そう言われたところで伝わらないと思うんです。実際に映画館でスクリーンの前に座り続けている中でしか理解できない。フヅクエも同じで、いろいろな要素がある店だとは思うのですが、実際にここで過ごしていただいて初めて『これか』と感じられるものなんじゃないのかなと。体験する以上の説明はないんじゃないのかなと。ブログをたくさん書いているのは、言葉で外側を埋めて埋めてその先に何かフヅクエらしきものがおぼろげに浮き彫りになっていくかな、というような考えからです。まあただ文章を書くのが好きだからやっているだけなんですが(笑)」

 最後にブログを使ってユニークな言葉を綴る執筆家であり、生粋の読書家の阿久津さんに「あなたにとって、読むと書くの関係は?」と尋ねると「フヅクエが何か?を答えるのと同様に、インスタントには言語化できないですね」と返答が。
では、フヅクエとは何か? そして、阿久津さんにとっての読むと書くの関係、その答えは、フヅクエのブログで! ということで、今回は、締めたいと思います。

フヅクエ

フヅクエ
住所:東京都渋谷区初台1-38-10 二名ビル 2F
営業時間:18:00~24:00(平日)、16:00~24:00(土日祝)
定休日:不定休
http://fuzkue.com/

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